「銀座オープンまで」 〜経緯・ストーリー〜

①〈話題の店をオープンさせたものの…〉

渋谷で成功事例のあった新時代の新スペース、「人」と「出会い」がテーマのハイパースナックの2号店を出したい、そんな思いは実は渋谷1号店をオープンさせて数ヶ月で考えはじめていました。
ハイパースナックサザナミ(渋谷)はオープンしてすぐに満席でお客様の入店をお断りするような状態が続き、今も繁盛店で週末には何組もお客様をお断りするような状態が続いております。
その度に「ああ、こんな時2号店がどこかにあったなら」と考えるようになったのです。
ハイパースナックサザナミ(渋谷)をオープンさせ半年が経った頃、わたしはほぼ平日の昼を不動産屋巡り、飲食店向けの出店セミナー、出店目標地の実地調査等に費やしていました。
出店目標地は渋谷近辺、恵比寿や三茶、富ヶ谷や原宿、青山に池尻、時には新宿や代々木、中野や笹塚、下北沢に吉祥寺、物件の内見だけでもおよそこの1年半で30物件ほど、物件情報のやりとりは100を超えました。
特に渋谷地区は重点的に問い合わせし研究もしましたが、流石に人気地区のため物件自体があまり出てこない、そして出てきたとしても条件や家賃面が高コスト過ぎて長い目で見た経営ができない物件ばかりで手を付けることができずにいました。
そんな時、仲良くしていた不動産業者から携帯電話に連絡が入ります。
「町田さん、渋谷近辺じゃないけど、東京の東側、銀座はどうですか?」
東京の東側?しかも銀座?今まで着眼していなかった地域でもありますし、渋谷を根城に二十年近くやってきた自分が銀座なんて果たして通じるのだろうか?そんな不安もよぎりました。
お客さんを渋谷店から流すこともしにくいし、可能性としては本当に低いだろうなと思いました。
「町田さん、ここは良い物件です、前のテナントさんも儲かってないから出るんじゃなくて高齢による引退なんですよ、町田さんも、もうすぐ40歳、そろそろ銀座、大人の街、いいんじゃないですか~?」
不動産の営業さんっていうのは実に乗せるのがうまい、わたしはまったくその気もないのについ乗せられ内見を約束してしまいました。
渋谷に話題のお店をオープンさせ繁盛店に成長させたものの、満席による新規お客様の機会損失、狭いお店が故の問題点、次の展開に迷っていたわたしは散歩気分で銀座の物件の内見に出かけることにしました。
まゆみさんIMG_6984

②〈出逢っちゃったな…魅力的な物件というやつに〉

正直わたしは銀座という街をまったく知らなかったのです、十代から遊ぶのは渋谷と相場は決まっていました。当時はストリートカルチャーや90年代のエネルギッシュな若者文化の全てが渋谷に集まっていました。わたしはそんな時代にDJとしてデビューし渋谷のカルチャーを支える側として渋谷で遊び、渋谷で働き、渋谷に住んでいました。
渋谷で一日過ごせと言われれば、「喜んで~、なんなりに~」と言えるのですが、じゃあ銀座で一日過ごせと言われたら皆目どうしてよいのか分かりません。
「町田さん、ここは本当にオススメ、これ絶対すぐ決まっちゃうよ」
待ち合わせした不動産業者さんは以前もう既に5回くらい内見に付き合ってもらい、友達のような感覚でありながらもなかなかの営業上手でどうやらこの物件をわたしに決めて貰いたい様子のようでした。
どれどれ、まあこっちは散歩気分で来ただけですがね…、そんな気分でわたしは物件の扉を開けました。
扉を開けた瞬間、長く人が大切に使っていた家のような匂いがしました。
祖母の住んでいた昭和建築の家のような、古いが世話が行き届いている、そんな懐かしさを秘めた匂い。
埃やカビの匂いではなく、長く使った木材の匂い、それを丁寧にケアして使っている「雰囲気」が匂いとして、わたしの脳裏を刺激したのです。
物件の細部を見るまでもなく、ここは良い「場所」だな、というわたしの直感が働き出しました。
綺麗に使われているキッチン、カウンター、グラス棚、その全てが古いながらに輝きを放っている、トイレも申し分ない、冷暖房も正常動作、照明や内装も昭和後期の雰囲気を持っていて、これは逆に今の時代に新鮮で良い。
確かにビルは古いが銀座の八丁目ということもあり家賃等、周辺費用はまずまずでありますが、この物件を居抜きで使うことの価値はなかなかにありそう、とわたしは思いました。
なにせ「居心地」というやつが抜群に良い、郷愁感に近い安心感のようなものが呼び起こされる、そんなマジックを持つ物件でした。
シンプルに言うと「魅力的な物件」です。
魅力的な物件、つまり是が非でも欲しい空間ということです、何十件も内見をして、やっと出会えた、やっと巡り会えた、そんな気がしたのです。
帰り道の銀座線の中、赤坂見附あたりで、わたしはついつい独り言を言ってしまいました。
「出逢っちゃったな…魅力的な物件というやつに」

そのえだ外観IMG_0328

 

③〈寿司屋にて…これが縁というやつか〉

「そう、その先週見てきた魅力的な物件ってのがなにせ銀座でさ~、いや~参ったよ…」
急に相談に呼び出したのにも関わらず、よく行く渋谷の寿司屋に足を運んできてくれたのは女友だちのAちゃんでした。
「でも、サザナミさん、本当は渋谷もうそろそろ一旦離れて新しいチャレンジしたいって思ってるんでしょ?」
アパレルで働くAちゃんはセンス良い洋服を着てセンスよく本当の事を言ってくれる、実に素敵な女性です(エンガワが大好きで4貫食べたのにはビックリしましたが)。
確かに20年近く渋谷に根をおろしている自分が最近、新しい土地で新しいチャレンジをしたがっているのは仲が良い人なら筒抜けだったかもしれません。
渋谷がダメ、渋谷が嫌いというわけではありません、多分、自分が変わっただけなのかもしれません…、単純に年齢なのか、お店をやりだしてなのか、2年弱前にスナックを出してからなのか…。
しかし、だからと言って銀座はあまりに土地勘もコネクションもなく自分のような者が行って通じるものか?不安しか無いですよね。
不安が故にビールがすすみ、3杯目のビールを飲み終えた時、わたしはカウンター席で並び合っている還暦くらいの男性の方の視線が強くなったのを感じました。
一瞬、わたしたちがうるさくお喋りし過ぎたかな、と不安になりながら男性の方に申し訳ないです、という意を含め軽く会釈をすると、男性は急にニコっとなって話しかけてきたのです。
「兄ちゃん、お店やってるんか?ごめんな、盗み聞きする気はなかったんだけどさ。銀座にお店出すんか?」
恰幅の良い還暦くらいの男性はマイボトルの焼酎で水割りを作りながら話しかけてきました。
「はい、銀座に良い魅力的な物件を見つけてしまったんです、でも自分銀座には縁もなくコネも知識もなくて…」
わたしが勢いなく話すと男性は黙って頷いていました。
「確かに銀座は簡単な街じゃない、日本で一番の街だしねぇ…。でも、銀座は本当に良い街だぞ!お店やってる人なら絶対出したい街、銀座でお店を出すって言ったら俺らの時代だったら自慢できるようなことだったんだよ!」
力のある男性の言葉に励まされるも、わたしは弱いトーンで「は~」と相づちを打った。
「よし、じゃあこれ!これを持ってCというお店に行きなさい、そこはYという私の後輩がもう何十年もやってるお店だから、そこでYから銀座のこと聞いたらいい」
男性が差し出したのはご自身の名刺でした、Tという本名、代表取締役という肩書の名刺でした。
彼は名刺の裏に「よろしく」と、それと店の電話番号を胸ポケットにさしていた高価そうなボールペンで書くと再び穏やかな笑顔でニコっとしました。
「それにしても姉ちゃん、エンガワ4貫はちと食いすぎじゃねえか?」
T社長も見事なAちゃんの食べっぷりが気になっていたようで笑顔でツッコんでくれました。
その日は意気投合し結局深夜まで3人で飲み語らったのです。
翌日起きると仕事用のデスクの上にT社長の名刺が鎮座していました。
わたしは名刺の裏のT社長の字を見て
「これが縁というやつか~…」とまたも独り言ちたのです。

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SAZANAMI
SAZANAMI

ハイパースナック サザナミは2016年7月動き出します。 新しいジャンル、BARでもありスナックでもあり、懐かしくて、でもどこか新しい、そんな不思議なお店です。 テーマは「人」そして「出会い」、どんな人が集い出会いを形成していくのか?その先にどんな「未来」があるのか?非常に楽しみです。